日立の民話

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『石名坂のオオカミ』

 むかしむかし、常陸の国に「石名坂」とゆうなげえ坂があったと。昼間でもうす暗くってとってもさびしい坂道だったと。

 ある日、百姓の嫁(あね)さまが荷車に野菜をいっけで、ヨッコラヨッコラと登ってきた。
すると、後ろから「ハッハッアー、ハッハッアー」いいながらついてくるもんがいたんだと。嫁(あね)さまは、おっかねくっておっかねくって、せぐべえとすんだが、足が動がねえんだと。そんとき、バサッと音がして、でっけえオオカミが口をあけで飛び出してきた。「食われるっ」と嫁(あね)さまは、さけんで、そこへねしかってしまった。オオカミも“べろ”をくんだしたまんま、やっぱしねしかってたと。不思議に思った嫁(あね)さまは、ガヂガヂふるえながらオオカミのそばに寄っていったと。

 オオカミは口を上に向けてじっとしていた。
その口の中をのぞいてみたらば、太い木のトゲが歯ぐきとほっぺたの間にぶっつりつったさっていたと。「あれっ、トゲだあ、いだがっぺ。とってもらえでんだなあ」そんでも、このトゲを抜いでやったらばちくしょうのごっだあ「おらのごど、食っちゃうんだっぺなあ」と思った。どうすべえ、どうすべえと思いあぐねでいたが、オオカミがせづなそうにしてんのであわれになり「まんず、抜いでくれっからなあ」といったと。嫁(あね)さまは、おっかねえおっかねえといって、ガヂガヂ、ガヂガヂふるえながら、口の中さ手をつっこむとカンザシの先でやっと抜いでやった。

 「ほれっ、トゲがぬけたぞう」オオカミの足もどにトゲをおいだと。すると、前足でトゲをころばしていたが、すごすごとやぶすこの中に入ってしまったと、嫁(あね)さまは助かったあ一といって街ばにいって野菜をおろし帰(けえ)りも石名坂を通ったと。
したらば坂のやぶすこからオオカミが首だけ出してじっと嫁(あね)さまをみでいんだと。嫁さまは後ずさりしたが気がせいでいだんで、夢中でガラガラ、ガラガラと荷車を引いて、坂をかけおりたと。ふり返ったらオオカミは嫁さまをやっぱしじっとみでいたと。

 そんなごとがあってから、また街へ行がねばなんねぐなった。嫁さまが石名坂の登り口にきたらば、オオカミの姿がチラチラ、チラチラとみえかくれしていだと。嫁さまは度胸すえで「まあ、どうにでもなれ」って登っていったと。しかし、オオカミはあとになったり先になったりしているだけで、とびかかってこねがった。

 それからも嫁さまは、おっかねえおっかねえといいながら坂を通ったと。するといつのまにかオオカミがやぶすこから出てきては、嫁(あね)さまをじっとみていた。「おらのごと、ほかのオオカミに食われねえよう、守ってくれてんだっぺえ」と嫁さまは思ったと。

 ― おしめえ ―

日立に昔から言い伝えられてきた話があります。成沢民話の会は、お年寄りからこの話を聴き、つなぎ合わせながら民話を創作し、会員の手で紙芝居を作り、語り手となって子どもたちに読み聴かせてきました。

日立市報 2002/01/05 から